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新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、世界100カ国以上、故郷を追われた約8,000万人がワクチン接種や治療を受けられるよう、UNHCRは働きかけを行っています。UNHCR上席公衆衛生官に現在の取り組みと課題について聞きました。
Q:難民、国内避難民、無国籍者のワクチン接種の管轄はどこになるのでしょうか
A:公衆衛生、新型コロナウイルス関連の対応は、それぞれの国の責任の下で行われなければなりません。難民などUNHCRの支援対象者へのワクチンの運搬・管理は、避難先の保健当局によって調整されます。そのうえで、国や国際機関、市民社会のパートナーが、その取り組みへのサポートを要請されることもあります。
Q:現在、すべての国の政府がワクチン接種計画に難民を含めるよう動いていますか
A:国、地域、グローバルレベルで、UNHCRの支援対象者が国の取り組みに含まれるよう働きかけを続けています。ワクチン接種戦略を策定している90カ国のうち、これまで51~57%が難民も対象として含んでいます。
また、新型コロナウイルスのワクチンが迅速かつ公平にすべての国がアクセス可能になることを目指す世界的なイニシアティブ「コバックス(COVAX)」の中で、UNHCRは議論や意思決定に関わってきました。“誰一人取り残さず” “公平にワクチンにアクセスできる”ことが、単なるスローガンでなく現実となるように、世界各地のパートナー団体と連携して取り組みを進めています。
Q:難民が国のワクチン接種計画に含まれなかった場合のリスクと結果は
A:公衆衛生の理論では、人口の少なくとも7割が免疫を得なければ、ウイルスの感染を止める、持続的な感染の抑制は不可能です。難民や国内避難民、外国人をワクチン接種から除外すると、彼らの感染は高まり、国全体への感染拡大にもつながります。ワクチン接種の対象に難民らを含むことは、パンデミック収束へのカギとなります。
また、難民を除外することによる明らかなリスクとして、健康、サービス、仕事、教育や生計向上の手段、移動の自由、差別からの解放などに影響がおよぶことが考えられます。
Q:難民への最初のワクチン接種はどの国で開始されますか
A:すでにヨルダンでは、難民へのワクチン接種が始まっています。今週、新型コロナウイルスのワクチン計画が施行され、その一部として、ヨルダン国内に居住する人はすべて、難民も庇護申請者も含めて、無料でワクチンを接種する権利があります。
この先数カ月で人口の2割への接種を目指しており、現時点で300万回分のワクチンを調達しています。ヨルダンでは、パンデミックが始まってから難民が対応の対象として含まれてきており、ヨルダン人と同様に、医療サービスへのアクセスが可能となっています。
Q:難民の中でもどのような人が優先されるのですか
A:初期段階でのワクチンは数に限りもあることから、WHOの専門家会議とCOVAXのステークホルダーは、すべての国にワクチンと治療が平等にシェアされるように、分配計画の枠組みに合意しました。
この枠組みでは、優先度の高い、お年寄りや慢性疾患のある人など免疫力が低い人に接種できいるよう、人口比に応じたワクチンが分配されるべきだとされています。また優先順位が高い人として、医療関係者やエッセンシャルワーカーも挙げられています。UNHCRの支援対象である難民も国の優先カテゴリーに当てはまる人が最初に接種を受け、ワクチンの確保数によってそれ以外の人が続きます。
Q:難民の大半がワクチンを受ける目標はいつまでと定めていますか
A:目標の期限を定めるのは現実的ではありません。大半の国はまだワクチンを受け取っておらず、製造のキャパシティ、供給、運搬に関する課題は、2021年にも続いていくかもしれません。重要なのは、難民がその国の人たちと変わらずワクチンにアクセスできることを確かにするということです。
Q:難民の86%は開発途上国で暮らしており、公衆衛生のサービスが脆弱な国も多くあります。ワクチンの運搬において、特に障害となっていることはありますか
A:現在承認されているワクチンは、超低温のコールドチェーンで最後まで管理される必要があります。これは、難民受け入れ国のほとんどで非常に大きな障壁で、他のワクチンのように、分散型アプローチの適用が難しくなっています。
通常、コールドチェーンのマネジメントからワクチン管理まで、国によって予防接種のインフラが整備されています。しかし現時点のコールドチェーンの体制は新型コロナウイルスのワクチンの取り扱いには十分ではありません。しかしこれから先、すでにある通常のコールドシェーンのシステムでも取り扱い可能なものも含めて、もっと多くの新型コロナワクチンが承認されるとみられています。
UNHCRは、各国の予防接種計画に基づき、保健当局や関連分野のパートナー団体、ユニセフやWHOと連携しながら予防接種の調整を進めています。しかしUNHCRには、ワクチン接種そのものを実施する技術的なキャパシティがないため、、国内のパートナーと連携しながらサポートに入っています。
Q:マイノリティの中で、ワクチン接種への抵抗の動きもあります。UNHCRはこれにどう対処していきますか
A:ワクチン接種の重要性、いつどこでどのように接種できるかの周知と教育を、UNHCRは保健分野のパートナーや難民コミュニティと独自の方法で取り組んでいます。なによりも、情報をきちんと知らせることがカギです。世界各地の難民の中にはパンデミックの最前線に立ち、医師、看護師として、また公衆衛生の啓発活動を行っている人がたくさんおり、彼らの存在、貢献はこれからさらに重要になってくるでしょう。
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