世界とつながる寅さん~『男はつらいよ お帰り 寅さん』にUNHCR職員が?!

”くるまや”の撮影現場で山田洋次監督とUNHCR駐日代表ダーク・ヘベカー
© UNHCR/Aiko M

2018年の夏の終わり、UNHCR駐日事務所にかかってきた一本の電話。「松竹の新作映画の登場人物の一人をUNHCR職員という設定にしようと検討しているのですが…」。その後のやり取りから、それが国民的映画『男はつらいよ』の第50作ということ、UNHCR職員は山田洋次監督の発案ということが分かりました。

関連シーンの撮影現場では、山田監督がご自身の満州引き揚げのご経験と重ね合わせ、世界各地で故郷を追われた難民たちが直面している現状に心を寄せてくださっているのを感じました。

演じるのは23年ぶりにスクリーンに戻ってきた後藤久美子さん。『男はつらいよ お帰り 寅さん』のイズミ・ブルーナUNHCR上級渉外官 を演じています。

 

UNHCR駐日代表ダーク・ヘベカー

この作品を一言で表現すると“タイム・トラベル”。約2時間の上映の中で、寅さんと一緒に時代を行ったり来たりするのがとても楽しく、不思議な感覚でした。
この作品の中には、日本人の日常、日本の姿そのものが描かれています。日本について深く知りたいと思っている外国人がいたら、ぜひ強く勧めたいですね。個人的には寅さんのユーモア、少し怒りっぽいところが好きです。

脚本、ディレクターの方々が生み出した作品の世界では、すべての登場人物が“主役”でした。近所の少年、サイン会に並んでいる女性ファンも、一人ひとりが本当に魅力的だったんです。ほんの数秒の出演でも、その一瞬の中で、登場人物、それぞれのストーリーに引き込まれていきました。

日本人以外の友人にも何度観ても飽きない作品だと自信をもって勧められますし、私もチャンスがあればほかのシリーズも観てみたいです。寅さんの家族の一員、近所の人になったみたいな気持ちになれました。

実は、難民というテーマがどう組み込まれるのか、寅さんの世界観を壊してしまわないか、少し不安でした。でも鑑賞後、その不安はなくなりました。山田監督、松竹のスタッフの皆さんがとてもよくリサーチして再現してくださり、イズミ・ブルーナは、私がこれまで一緒に仕事をしてきたUNHCRの日本人の同僚そのものです。

イズミを演じられた後藤久美子さんを、いつか日本や世界の難民支援の現場にご案内できる機会があれば、とても素晴らしいと思っています。

撮影現場で後藤久美子さんにUNHCRの活動について紹介するヘベカー

 

UNHCR駐日副代表(渉外担当) 河原直美

子どものころ、スイスで暮らしていたのですが、毎年日本人会の開催する映画会で寅さんシリーズを上映していました。日本文化に触れる数少ない機会でもあり、家族でいつも楽しみにしていました。

家族みんな寅さんが大好きで、よく寅さんが言った名ゼリフを家で真似たりしたものです。帰国した時にはわざわざ柴又に行ったり。渥美清さんが亡くなったニュースを知った時、本当に悲しい思いになったのを覚えています。

その寅さんの50作目!昔のワクワクがよみがえり、懐かしさでいっぱいになりました。

一足先に鑑賞する機会をいただき、変わらない寅さんの姿に涙が出ました。寅さんはずっとそこにいてくれた、よかった。スクリーンを通じて再会できてほっとしました。

甥の満男くんはいつの間にか立派な大人になって、まるで近所のおばさんのようにうれしい気持ちに。イズミちゃんも素敵なUNHCR職員になってときめきました。

UNHCR難民映画祭のトークイベントで司会をする河原(左)

UNHCR駐日副代表(法務担当) 川内敏月

海外での勤務が続き長く日本を離れていたこともあり、これまで日本の映画を見る機会があまりありませんでした。2017年に駐日副代表に着任してからは日本文化にたくさん触れようと、『男はつらいよ』シリーズも何本か観ました。いつの間にか“寅さん”の魅力にすっかり取りつかれ、もっと観てみたいと思っていた矢先、UNHCRが新作に関わらせていただくことを知り大変光栄に思いました。

『男はつらいよ お帰り 寅さん』鑑賞後、後藤久美子さん演じるイズミはもちろん、寅さんもUNHCRの同僚のように身近に感じました。

UNHCRのスタッフと同じように、寅さんもいろいろな場所に行き、さまざまな人たちと出会い交流します。その旅路では、良いこともあれば、うまくいかないこともある。それがどこか、UNHCRの仕事と重なる部分があったからかもしれません。

第50作で私たちのもとに戻ってきた寅さんは、これまでと変わらず、どんな状況にあっても、出会う人たちすべてに何か温かいものを残してくれる存在でした。それが強く印象に残った作品でした。

映画の試写会で丸山ゴンザレスさんと対談する川内(右)