JPO(Junior Professional Officer)派遣制度は、国際機関が若手人材を受け入れる制度です。各国政府が費用を負担し、日本では外務省を含む複数の省庁が、国連をはじめとする国際機関に派遣を実施しています。
「どこから話しましょうか」
そう笑顔で話し始めたのは、UNHCRトルコ ガジアンテップ事務所の工藤晴子准保護官。シリアとの国境に近く、日本からの資金協力や技術支援も重要な役割を果たすこの地域。2018年にJPO派遣制度を通じて赴任し、難民支援の現場で奔走しています。
東京の伊豆大島出身。UNHCRの一員、准保護官として、トルコに逃れてきた難民の保護を担当しています。
UNHCRで働く前は、日本の大学院の博士課程で社会学を専攻し、難民や庇護申請者を支援するNGOでの勤務やLGBTQ+の人々の権利に関する活動に携わっていました。難民支援の経験や強制移動とジェンダー、セクシュアリティの交差についての研究を重ねるにつれて、次は海外の現場で、国連ボランティア(UNV)にチャレンジしたいという思いが高まっていきました。
「ナイジェリアやタイのUNHCRでUNVの経験のある友人もいましたし、私自身も、学問、NGOで蓄積してきた知識を生かしてみたいと思いました。そして、UNVのUNHCRのポジションに応募してみようと踏み出したんです。勤務地にこだわりはありませんでしたが、UNHCRエジプトへの派遣が決まった時は本当にうれしかったです」
そして2016年、UNHCRエジプト事務所にUNVとして派遣され、現場のニーズに応じた人道支援に積極的に関わりました。エジプトでの20カ月はかけがえのない経験でした。
その手ごたえから、今度はJPO派遣制度を使って、別の地域のUNHCRの活動に携わることで自分の経験の幅を広げたいと思うようになりました。応募にためらいはなく、そして合格。トルコ南東部の国境近くの街、UNHCRトルコ ガジアンテップ事務所 法務部への派遣が決まりました。
「自分の知見を広げることができるだけでなく、エジプトでの経験を生かして難民保護に貢献するには最適な場所だと思いました」
エジプトとトルコの保護のニーズは背景も規模も違います。でも想像した通り、あらゆる場でエジプトでの経験を生かすことができました。実践的な解決策を考えるには、現場での経験が必ず必要となるからです。
トルコでは主に、性とジェンダーに基づく暴力(SGBV)への対応、パートナー団体へのトレーニング、「シリア周辺地域・難民・回復計画(3RP)」に基づく組織間の活動の調整などを担当していますが、どの業務においても、大切なのはコミュニケーション。さまざまな人とコミュニケーションをとるそのプロセスが楽しいと工藤准保護官は話します。
「常に意識すべきなのは、保護を必要とする人たち、パートナー団体の方々などと、しっかりとコミュニケ―ションを取り、信頼関係を築いていくことです。それがより良い保護環境につながりますし、必要な対策、革新的なアプローチをとる時の基盤にもなります」
また、JPOとしてUNHCRの活動に携わる中で、JPO制度は難民の生活を守るだけでなく、UNHCRの人材、組織、活動の能力強化の役割も担っているのだと実感しているといいます。故郷を追われた人々のニーズに応じて適切な支援を実施するために、JPOとUNHCR職員の密接な連携は必要不可欠だからです。
「現場において取るべきステップが見えてきたら、職員それぞれの知見や能力を生かすためのツールを提供してくれる。UNHCRという組織の魅力のひとつです」
JPOとしてもっと、多くの人道支援者がUNHCRの現場に派遣されればー。かけがえのない経験を得ることができるだけでなく、難民の保護、UNHCRの能力拡大にも貢献できるはずです。ガジアンテップで信頼できる同僚たちと仕事に没頭する充実した日々の中で、工藤准保護官は「JPOが終わってもUNHCRで働き続けたい」と考えています。
日本はUNHCRのトルコでの難民支援活動における重要なパートナーです。日本からの継続的な難民支援、そして、JPO派遣制度を通じた日本の貴重な若手人材の世界各地での人道支援は、UNHCRの活動に多大な貢献を果たしています。
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