2015年6月19日(金) 国連大学、ウ・タント国際会議場でUNHCR / ジャパン・プラットフォーム(JPF)共催シンポジウム「シリア危機: じぶんごと ‐ 私たちに求められる行動」が開催された。
まずマイケル・リンデンバウアーUNHCR駐日事務所代表が開会の挨拶を行い、続いて逢沢一郎衆議院議員、UNHCR議員連盟会長が来賓として登壇し、挨拶した。
<シンポジウム第1部:基調講演>
シンポジウムの第1部ではJPF理事でもある長有紀枝 立教大学社会学部教授が基調講演「シリア危機を「じぶんごと」とするために – 人道主義の視点から」を行った。長教授はまず人道とは何であるのか、人情と対比して語られることがあるという具体例から説明した。人情とは、自分の家族、愛する人や知人などが助けを必要としていたら何かしたいと思う誰もが持ち得る思いである。一方人道とは人情の枠を超え、自分が会ったことがない人、自分が直接関わっていない人にも思いを寄せ、行動をおこすことである。
さらに赤十字を中心に発展してきた「人道支援」の歴史に触れ、その活動は常に中立であることが必要不可欠であり、痛みを危険を伴う作業であることを説明した。また、中立そのものが時として「無関心」の言い訳として使われることにも言及し、中立であることを理由に関わらないのではなく、中立でありながら起きている問題の中に入り、行動することが人道であると話した。その上で「大切な人が今倒れたら?それがシリアの人だったら?」という問いを投げかけ、「他人事」から抜け出すにはまず想像力を働かせることが重要であると語った。また、想像力とは人間に与えられた限りない力であり、想像力を働かせることは世界で起きていることを自分の事として考える第一歩であると話した。
次にアミン・アワドUNHCR中東・北アフリカ 局長が「 シリア紛争の地域的側面」について講演した。まず2012年は25万人だったシリア難民が、現在400万人に迫る勢いで急増していることに触れ、既存の国際的枠組みでは危機に対応出来ない現状を訴えた。また長期に渡って学校へ行けないシリアの子どもたちが多くおり、子どもたちの未来が、そして国の未来が失われつつあることに警鐘を鳴らした。さらに多くの難民を受け入れているヨルダンを例に、住居、雇用、公共サービスなど難民受け入れ国が直面している課題に触れた。また「シリア周辺地域・難民・回復計画(3RP)」を通して、人道援助機関と開発機関が協働して難民受け入れコミュニティのサポートを強化することの必要性を訴えた。
<シンポジウム第2部:シリア危機に対する国際的支援>
シンポジウム第2部では近藤 哲生 国連開発計画 (UNDP) 駐日代表が「シリア周辺国における受入れコミュニティや社会的弱者に向けた支援」について講演を行った。また渡部正樹国連人道問題調整事務所 (OCHA)神戸事務所長が「シリア国内における人道支援」について説明した。
<第3部:パネル・ディスカッション>
第3部のパネル・ディスカッションは長有紀枝教授がモデレーターをつとめ、活発な議論が交わされた。
<パネル・ディスカッション パネリスト>
廣田 司(外務省緊急人道支援課課長)
森裕之(国際協力機構(JICA)中東・欧州部次長)
加藤香子(国境なき子どもたち(KnK)海外事業担当)
田中好子(パレスチナ子どものキャンペーン(CCP Japan)事務局長)
石井宏明(難民支援協会(JAR) 常任理事)
まず廣田司 外務省緊急人道支援課課長は、日本政府としてシリア危機にどう向き合ってきたか「シリア国内、シリア周辺国への人道支援」と「受け入れコミュニティへの支援」について説明した。続いて森裕之 国際協力機構(JICA)中東・欧州部次長は、「JICAのシリア難民、ホストコミュニティ支援」について主にヨルダン、トルコ、レバノンを例に紹介した。
次に子どもへの支援について加藤香子 国境なき子どもたち(KnK)海外事業担当が「ヨルダンに暮らす子どもたちの教育支援」について、また田中好子パレスチナ子どものキャンペーン(CCP Japan)事務局長が「レバノンでのシリア難民の支援とコミュニティのレジリエンス強化」について具体例を交えながら伝えた。
そして石井宏明 難民支援協会(JAR) 常任理事は「シリア難民の受け入れ 世界と日本」と題し、主に先進諸国におけるシリア難民の受け入れ比較、日本のシリア難民保護の状況、日本で実現したシリア難民の家族再統合などについて話した。
質疑応答では参加者から「シリア危機に対して日本が拠出しているお金はどのように使われているのか。ニーズと合致しているのか」「シリア国内支援において地元の団体との協力はどのように行われているのか」「日本でもっとシリア難民を受け入れるためには、どうすればよいか」「難民受け入れコミュニティへの生活支援はされているのか」などの質問が寄せられ、パネリストがそれぞれの立場から応えた。最後にシリア危機を自分の事として捉え、自分に出来ることは何であるのかをパネリストがコメントした。
シンポジウムの締めくくりに日本国際民間協力会NICCO 事務局長の折居 徳正が、議論された内容を振り返りつつ総括を行なった。
Photo © UNHCR