9月7日(金)、東京・イタリア文化会館で「UNHCR難民映画祭2018」のオープニング上映が行われました。
今回上映作品に選ばれたのは『ソフラ~夢をキッチンカーにのせて~』。レバノンの難民キャンプで暮らす難民の女性たちが、料理のスキルを生かし、ケータリングビジネスの起業に挑戦するドキュメンタリーです。困難に直面しながらも力強く前に進んでいこうとする姿に、上映後は会場から大きな拍手がわき起こりました。
続いて行われたのが、UNHCR親善大使のMIYAVIとフォトジャーナリストの安田菜津紀さんによるトークイベント。それぞれが難民支援の現場で見たストーリーを織り交ぜながら、映画の舞台で起こっていること、今できることを会場の皆さんと考えました。
▶ ケータリング用の車の購入に奔走する難民の女性たち
MIYAVI(以下、M)「見終わって、ずっと考えてたんですね。なぜそこまで、彼女たちが車を買うことにこだわったのか?もちろん、多くの仲間に働く機会を広げたいという気持ちがまずあったと思います。でもなにより、厳しい交渉の末やっと購入した車は、彼女たちにとって『今、自分たちはここにいるんだ!』という“存在証明”だったのかなあと思いました」
安田菜津紀(以下、N)「パレスチナに行った時、そこには、自由に外に出ることができない居住空間がありました。制約の多い環境下でなんとか手に入れた車は、彼女たちの“自由な翼”だと感じました」
M「SNSで情報がすぐシェアされる時代ですが、難民の皆さんはずっと、世界から取り残されていく恐怖感にとらわれています。彼女たちにとっては、ケータリングビジネスを始めることで、自分が必要とされている、世界とつながっているんだと感じることができたんだと思います」
N「お母さんたちのパワーがいっぱい詰まった映画でしたよね。そして、映画に出てくるアラブ料理がとてもおいしそうでした。パレスチナ、シリア、レバノンなど、中東地域は本当に食が豊かです。誇れる食文化、それはふるさとを離れた難民のアイデンティティそのものです」
M「中東は独特の料理がたくさんありますし、高タンパクでおいしいですよね。映画や食を通じてその国の文化を知ることができる。日本でも食べれる場所があるので、ぜひ足を運んでもらいたいですね」
▶ ふるさとを逃れても“仕事をもつ”ことの大切さ
M「『朝起きて、仕事があることがどんなにうれしいことか』というメッセージが心に響きました。僕の事務所のスタッフにも、ぜひ見せたいですね(笑)。自分が人生をかけてやっていることが、生きがいになるのは、本当に幸せなこと。厳しい環境のなかでそれを見つけた彼女たちは、本当に強い」
N「シリアの人たちに国を追われる前どんな仕事をしていたのか、聞いたことがあるのですが、テレビのプロデューサー、音楽の先生などさまざまでした。仕事がないと収入を得られないだけでなく、社会から切り離されてストレスを感じ、それが子どもたちに向いてしまうこともあります。子どもたちの居場所、教育も受ける権利を確保することが大人の役割。働くことは結果的に、彼らの未来を守ることにつながるのです」
M「キャンプで生まれた子どもにとっては、キャンプでの世界がすべて。人とシェアをする、争わずに共存することを学ぶためには、質の高い教育が必要です。なにより子どもの笑顔は大人たちにとっても希望になりますし、大人も、子どもも、そして、この映画のように女性も、当たり前に輝ける社会をつくることが大切だと思います」
▶ それぞれの役割で「伝えていくこと」が大切
M「ニュースでは伝わらないことを届けられるのが、映画や音楽、“文化の力”です。僕が音楽の力を感じたのは、初めてレバノンを訪れた時。難民の子どもたちの前でギターをかき鳴らした瞬間、みんなの表情がぱっと明るくなったんです。僕たちにとっては毎晩やっていることだけれど、子どもたちにとってはとても特別なことだったんだと。彼らから逆にいろんなことを教えてもらいました」
N「私は写真で直接人の命を救うことはできないけれど、“できないこと”を自覚することも大切だと感じています。できないことがあるからこそ、違う役割を持つ人たちと役割を持ち寄り、手を携えていくことが大切だと気づきました」
M「できないことが知ることで、自分ができることも自ずと見えてきますよね。現地に行きたいけど行けない、はがゆい思いをしている人もいる。でも、それぞれにそれぞれの役割があって、みんながつながることで何かを成し遂げることができる。僕は、どんなことでもひとつひとつが未来につながっていることを伝えたいです」
N「誰もが現地に行けるわけではありません。現場に行ける人が、私の場合は写真に、MIYAVIさんは音楽に思いを込めて、皆さんに伝えてきたいと思います」
M「僕自身にとっても難民支援の現場で見た光景が、自然と作品に影響しています。興味のない人に対して、押し付けがましくなく、どう “かっこよく”伝えられるのか。ギターで歌ったところで世界はすぐ変えられない。だけど、歌える限り歌い続けたいです」
▶ 一度だけでなく、何度も訪れることできずなが生まれる
M「レバノンには2回訪れています。最初の訪問で子どもたちとレバノン杉を植えて、2回目の訪問で、その木の成長とともに、子供達の成長も垣間見れました。彼らが学校に通えるようになったのを見ることができたのも、とてもうれしかったです。これからもできる限り多くの現場を訪れ、点と点がどう線になっていくのかを見ていきたいです」
N「映画に『テロと難民を結びつけるのはやめよう』という言葉が出てきますが、難民の方々と直接ふれあうと、世間で報じられているのとは違う印象を受けますよね」
M「日本語で難民は“難しい民”という字面のイメージが強いですが、まったく難しいなんてことはない。けなげで強い人たち。世界でどんなことが起こっているのか、そして彼らがどのような生活を送っているのかについて、もっと知ってほしいと思います」
▶ 日本の子どもたちに伝えたいこと
M「語学を学ぶこと、世界に出ることの大切さでしょうか。海の向こうにはこういう現状で暮らしている子どもたちがいる、自分たちの生活と比べてどうか。僕も、写真や動画を自分の子どもたちにも見せながら話します。そのうえで自分たちが今からできること、ものを無駄にしないなど、たとえ小さなことでも、それが大事だし、そういう生き方こそがかっこいいということを教えていきたいですね」
▶ 今後、難民問題に対して取り組んでいきたいこと
M「アフガン難民のラッパー、ソニータとコラボして曲を発表しましたが、やはり音楽を通じて、もっと多くの人に聞いてもらえる機会をつくれればと思います。そして、直接的に影響力のある政治家などと意見交換しつつ、自分たちにできることを考えて、提案していきたいです。
あとは、なんと言っても教育。ひとりでも多くの子どもたちが教育を受けられるようにすること、そして、僕自身も教えることが好きなので、将来的には、難民の子どもたちに音楽やサッカーなどを通じていろんなことを教えていきたいですね」