無国籍とは?
無国籍であることとは国籍を持たないということです。どの国との間にも法的なきずなを持たないのです。無国籍者は日常生活で様々な困難に直面しています。医療・教育・財産的権利へのアクセスだけでなく移動の自由も無い場合もあり、恣意的な待遇や人身取引のような犯罪にあいやすいのです。無国籍者に対する軽視や差別は社会的な不安定要素をもたらし、極端な場合、紛争や国内外への強制移動を含む国際的なレベルの不安材料につながり得ます。中には、形式的には国籍を有していながら、無国籍者と同じ状況にある人も存在します。彼らを指す用語として「事実上の(de facto)」無国籍者という言葉がしばしば使われてきましたが、これには国際的に受け入れられた定義が存在しません。伝統的には、この用語は自分の国籍国外において外交的・領事的保護や支援を拒否された人々を指すために使用されていました。たとえば、この状況は、国籍国が形式的には当該人を国民として認めているのにもかかわらず、帰国を拒否した場合に発生します。その場合、その者は難民の定義にも該当する可能性があります。「法律上の(de jure)」無国籍に対する「事実上の(de facto)」無国籍者に関しては、詳しくは『国際法における無国籍者の概念-概括的結論』 を参照してください。
無国籍の原因
各国は、国籍関連の問題に対応し、誰が国民であるかを決定する責任を負っています。国籍の決定は出生・血統・居住を通した当該国とのつながりにもとづいています。無国籍者であっても、皆少なくとも一つの国とはそうしたつながりを持っていますが、法令の問題や差別により国籍を保有していないのです。
国が独立をする際、その国は自国民の定義を行わなければなりません。かつては民族を基準として国籍を決定する国が多かったため、多くの人々が除外されていました。独立後の法令でも、国籍が血統にもとづいて決定されることになることが多く、両親も世代から世代へ無国籍を伝えていかざるを得なくなるのです。中には独立からずいぶん時間が経った後に、一部の人々を排除する政策が導入された国もあります。また、法の文言上での平等は必ずしも国籍に関連する権利を完全に保障するものではありません。実際には政府が民族、言語、宗教等にもとづいて国籍を証明する書類の発行を拒否していることもあります。
一部の国では、女性は男性と対等の国籍に関連する権利を所有していません。たとえば女性が(男性はできるのにも関わらず)国籍を自分の子どもに受け継がせられない場合で、しかもその子どもが父親の国籍を法令上取得することができない場合、あるいは父親が子どもへの国籍を与える事ができない・与えたがらない場合に、子どもたちが無国籍となる危険性が高まります。さらには、女性は(男性はできるのにも関らず)外国人の夫に自身の国籍を取得させることができないという国もあります。
新しい国家の成立の際、あるいは領土が変更(国家継承)された際に制定された国籍法のよくある問題としては、対象が限定されたものであり期限が設けられているということがあります。その結果、多くの人がその対象から漏れ、無国籍となってしまうのです。
多くの人にとっては、持っているはずの国籍を立証できないことは全く国籍を持たないことと同じ結果につながります。また、出生証明書は血統と出生地を立証するため、国籍の証明の重要な要素となります。毎年、新たに生まれても登録されない命が何百万とあるわけですが、その度に無国籍の危険性は高まるのです。
無国籍者とはどういう人か・どこにいるのか
世界中の数多くの開発途上国・先進国に無国籍者が存在し、およそ1,200万人にのぼるとUNHCRは推計していますが、正確な数はわかっていません。アフリカ、アメリカ大陸、アジアそしてヨーロッパにいる無国籍者は、UNHCRの発足当初から関心対象者となっています。
多くの無国籍の状況の根本的原因は特定の人々を排除するような政策にあります。中東をはじめとする世界中の様々な地域では、ジェンダーにもとづく差別的な法令が依然として無国籍のリスクを生じさせる原因となっています。多くの湾岸諸国では、独立時に除外されてしまった人々はBidoon(アラビア語では文字通り、“without”「~なしの」の意)と呼ばれています。イラクのサダム・フセイン政権下では、多くのフェイリ・クルド(Feiri Kurds)の人々が国籍を剥奪されましたが、この命令は2006年に撤回されました。アフリカのケニアでは、一部のヌビアン(Nubian)の人々は国籍を持つ権利を享受できていません。大陸を挟んだコートジボワールでは、大勢の人々の国籍上の地位が明らかになっていません。ヨーロッパでは、1990年台のソ連・旧ユーゴスラビアの解体によって新興国にも無国籍が広がりました。いずれの場合においても、国家継承にまつわる問題は影響を受けた人口の大きさと難民の移動でいっそうひどくなりました。こうした無国籍者の帰化を実現し、国籍を証明する書類を発行する努力は続けられていますが、事態が完全に解決されたとはいえません。 無国籍の問題はカリブ海地域でもUNHCRの関心対象となっています。
何百万人もがバングラデシュやネパールにて国籍を取得するなど、近年アジアでは成功例が数多くあります。ネパールは2007年には世界で最も多くの無国籍者数を減らした国となりました。しかし、ヒマラヤ山脈の連なるネパールには依然として国籍が確認されておらず国籍を証明する書類を持っていないために政府のサービスを受けることができない人々がおよそ80万人もいるのです。