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株式会社アルーシャ代表取締役の岩瀬香奈子さんは、2010年に難民ネイリストによるネイルサロンを設立。日本に住む難民がネイリストとして技術を身に付けられるよう研修を行い、就労の機会を提供しています。
キャリアウーマンとして活躍されていた岩瀬さんがネイルサロンを通じて難民支援をしようと思ったきっかけ、出会い、支援を続けていくうえで気をつけていらっしゃることなどをお聞きしました。
技術があればどこに行っても活かせる
―アルーシャ設立の経緯を教えていただけますか?
昔から難民問題に関心があったというわけではなかったんです。2004~2005年英国ビジネススクール留学後、外資系企業に勤務していました。
忙しいながらも充実した日々を送っていた矢先、タンザニアでマイクロファイナンスの事業を立ち上げようと準備されている方との出会いがありました。お話しているうちに大変興味を持ち、何らかの形でお手伝いしたいと思うようになりました。そこでこれまでの経験を活かし、事業のサポートをさせていただきました。(ちなみに、ネイルサロンの名前「アルーシャ」はタンザニアにある都市の名前です。)
これをきっかけに様々な会合やNPOの集まりなどに出席するようになり、人道支援をしている方とお会いする機会が増えるようになりました。そんな折、日本に住む難民の人が作ったビーズアクセサリーを販売して、その売り上げを難民支援に充てていらっしゃる方とお会いし、日本に住む難民について知るようになりました。
以前旅行先のロサンゼルスでネイルサロンに行った際、そこのネイリストが全員タイ出身だったこと、また香港でネイルサロンに行った際に、言葉が通じなくても指さしで希望の色を伝えるなどあまり不自由を感じなかったこともヒントになっています。
「技術があれば言葉の壁をあまり感じずに始めることができる」と確信したんです。何より、日本のネイルの技術は世界一と言われています。日本で身に付けたネイルの技術は、難民の人が今後どこに行っても活かせるのでは、と思いました。
文化の違いを認識し、日本ならではの心配りを伝える
―設立から苦労されたこと、気をつけていらっしゃることはありますか?
何といっても文化の違いからくる認識の違いでしょうか。例えば、時間についての考え方が違います。始めのうちは研修に遅れて来ることもあり、時間を守ることの大切さについて何度も伝えなければなりませんでした。
また、サービスにおいて日本人はとても細かい気配りをします。些細なことだと思われるようなことも、日本人のお客様から見たら失礼に当たることもあります。日本人同士だったら知っていて当然ということが難民の人にとっては分からない事も多くあるので、丁寧に伝えていく必要があります。
―お客様からはどういう声が届きますか?
お店にいらっしゃる皆さんは、とてもあたたかく応援してくださっています。毎回同じネイリストを指名してくださる方が、そのネイリストの日本語の上達を褒めて下さることもあります。
また、難民問題に興味を持ってくださる方も多く、なぜ祖国を離れなければならなかったのか、祖国での紛争についてなど色々と質問してくださり、難民の声に耳を傾けてくださる方も多くいらっしゃいます。
感謝の言葉がみんなの原動力
―アルーシャに勤務する難民の方からはどのような声が聞かれますか?
残念ながら日本はまだ難民に対しての意識が低く、難民の人が職を得たとしても職場で差別的な扱いを受けることがあります。日本語が不自由な人も多く、他の従業員と充分なコミュニケーションが取れないことがあることも一因だと思います。話を聞くと、20年も日本にいて日本人の友達がいないという難民もいました。
また日本で生活する難民の多くは職を得たとしても飲食店の調理場や洗い場での仕事が多く、このまま一生を終えるのかと不安だったという人もいました。プロのネイリストとして仕事し、日本人のお客様に「ありがとう」とお礼を言ってもらえることは大きなやりがいにつながっているようです。
―毎日お忙しい岩瀬さんのリラックス法は何ですか?
一日一本は映画を観ています。映画館に足を運ぶ時間はあまりないのですが、一日が終わり眠りにつく前に家でDVD鑑賞をします。就寝前なので寝つきが悪くなるようなホラーなどはあまり観ませんが、様々なジャンルの映画を観て気分転換をしています。
―最後にこの記事を読んでいる皆さんにメッセージをお願いします。
出来れば難民問題にあまり関心のない方に難民の現状を知って欲しいと思います。日本はまだまだ難民に関して誤解や偏見があるように思います。遠い国で起こっている出来事ではなく、日本にも難民がいる事実を認識し、難民問題に興味を持って欲しいと思います。アルーシャがそのきっかけになれればとても嬉しいです。
取材日:2013年10月
プロフィール
新卒で大手人材派遣会社へ入社。その後、外資系金融ソフトウェア企業へ。ベンチャー企業立ち上げに参画後、2004年英国ビジネススクールへ留学。
帰国後、米系エグゼクティブサーチファームにて3年半勤務し、2009年『株式会社アルーシャ』を設立。翌年、難民ネイリストによるネイルサロンをオープン。