第三国での生活の新しいスタート
総括
難民の中には出身国において引き続き迫害を受けるおそれがあるため帰国できない、またはそれを望まない人々がいます。多くの難民は、一次的に庇護を求めた国においても、なお危険な状況下で生活していたり、その庇護国で対応できないような特有のニーズを持ち合わせていたりします。そのような場合において、UNHCRは唯一の安全で実現可能な恒久的な解決策として、難民が最初に保護を求めた国から、彼・彼女らを受け入れることに同意した第三国へと移る手続き、つまり難民の「第三国への再定住」を手助けしています。今日、世界中1,050万人のUNHCRが関わる難民のうち、さまざまな条件から、約1パーセントのみがUNHCRから第三国定住候補の目的で受け入れ国に第三国定住申請書が提出されています。
第三国定住の3つの機能
- 第三国定住は、国際保護を提供し、避難国で生命、自由、安全、健康その他の基本的権利が脅かされている難民の特別なニーズに応えるための手段のひとつです。
- 第三国定住は、自主帰還および庇護国社会への統合といった他の方法と並んで、恒久的解決策のひとつです。
- 第三国定住は、国際連帯が目に見える形で表れたものであり、諸国がおたがいの責任を共有するのに役立ち、一次庇護国に影響を及ぼす問題を少なくすることにつながります。
第三国定住を行う条件
第三国定住の候補者となるかどうかを検討するうえで、前提となる条件が3つあります。
- 申請者がUNHCRにより難民として認定されていること。
- すべての恒久的解決策についての見通しの評価が実施され、その結果第三国定住が最適な解決策であることが確認されていること。
- ただし、難民ではないが第三国定住が最適な恒久的解決策と考えられる無国籍者の場合や、難民ではないが特定の扶養家族との家族の結合を維持するために第三国定住を行う場合は、これに当たらない。
前提条件を満たしたうえで、第三国定住候補として受け入れ国へ提出されるためには、7つのカテゴリーのうちの少なくとも1つの条件を満たしている必要があります。
1. 法的・身体的保護のニーズ
避難国における難民の継続的滞在が深刻に脅かされている場合(ルフールマンの脅威も含む)
2. 拷問や暴力のサバイバー
帰還または庇護国での状況がさらなるトラウマを生み、リスクを高める可能性がある場合、または適切な対応を行うことができない場合
3. 医療ニーズ
特に命に関わる治療を避難国で行うことができない場合
4. 危機に瀕する可能性のある女性および少女
女性であることで固有の保護上の問題に直面している場合
5. 家族の再統合
逃避や避難により国境または大陸を越えて離散している難民の家族にとって、第三国定住が家族の再統合のための唯一の手段である場合
6. 危機に瀕する可能性のある子どもおよび若年者
子どもの最善利益認定みより、第三国定住が必要と認められた場合
7. 恒久的解決策の選択肢に実現の見通しがない場合
一般的に、他の解決策が近い将来に実現する可能性が低いため、第三国定住がより包括的な解決への道を開く可能性がある場合
第三国定住の現状
現在少数の国家のみがUNHCRの第三国定住プログラムを通じた難民の受け入れを実施しています。アメリカ合衆国が世界最大の第三国定住受け入れ国ですが、オーストラリア、カナダ、そして北欧諸国も毎年相当な受け入れをしています。また、近年、ヨーロッパやラテンアメリカ諸国でも第三国定住受け入れを始める国の数が増加しています。多くの場合、第三国定住受け入れ国は、その国民が享受する市民、参政、経済、社会、そして文化権に近い権利を与えることを含め、法的、身体的な保護を難民に提供しています。また、第三国定住受け入れ国の中で、難民の帰化を認める国も増えてきています。
UNHCRは2011年に、第三国定住受け入れ国に検討を仰ぐべく約92,000人の難民の候補を提出しました。主な出身国別に見ると、UNHCRが促進する第三国定住プログラムの対象になっている難民はミャンマー(21,290人)、イラク(19,994人)、ソマリア(15,719人)、そしてブータン(13,092人)からの人々です。「危機に瀕する可能性のある女性や少女」の第三国定住申請が、この6年間で最も多い、全体の申請者数の約10パーセントをしめました。
同年、ほぼ62,000人がUNHCRの援助で22カ国の第三国定住受け入れ国に向けて出発しました。最大数の第三国定住難民を輩出した一次庇護国はネパール(18,151人)、次いでタイ(9,569人)、そしてマレーシア(8,370人)です。第三国定住は人生を大きく変える経験です。難民にとっては大変なプロセスではありますが、価値のあることでもあります。難民は多くの場合、社会、言語そして文化も全く異なる新しい国に再定住します。
難民の効果的な受け入れを行い社会統合のために支援を行うことは第三国定住難民、受け入れ国の双方にとって有益です。政府や非政府組織(NGO)のパートナー達は難民の統合を支援するサービスとして教育や就労機会を得るためのプログラム、その他、文化オリエンテーション、言語と職業訓練などを提供しています。
トップ10:UNHCRが提出した候補者数(2011年) | |||||
一次庇護国別(人) | 出身国別(人) | 受入国別(人) | |||
マレーシア | 13,731 | ミャンマー | 21,290 | アメリカ | 69,655 |
ネパール | 13,248 | イラク | 19,994 | オーストラリア | 6,692 |
ケニア | 10,518 | ソマリア | 15,719 | カナダ | 6,404 |
シリア | 9,089 | ブータン | 13,092 | スウェーデン | 2,206 |
タイ | 8,316 | コンゴ(DRC) | 4,079 | ノルウェー | 2,010 |
トルコ | 6,475 | アフガニスタン | 3,041 | イギリス | 939 |
ヨルダン | 3,552 | エリトリア | 2,916 | ニュージーランド | 870 |
レバノン | 3,308 | エチオピア | 2,607 | フィンランド | 796 |
チュニジア | 2,857 | スーダン | 2,517 | オランダ | 717 |
エジプト | 2,684 | イラン | 2,496 | デンマーク | 698 |
他 | 18,065 | 他 | 4,092 | 他 | 856 |
合計 | 91,843 | 合計 | 91,843 | 合計 | 91,843 |
トップ10:第三国定住のため出発した人数(2011年) | |||||
一次庇護国別(人) | 出身国別(人) | 受入国別(人) | |||
ネパール | 18,151 | ブータン | 18,068 | アメリカ | 43,215 |
タイ | 9,569 | ミャンマー | 17,899 | カナダ | 6,827 |
マレーシア | 8,370 | イラク | 8,677 | オーストラリア | 5,597 |
シリア | 4,560 | ソマリア | 4,636 | スウェーデン | 1,896 |
トルコ | 4,388 | エリトリア | 2,836 | ノルウェー | 1,258 |
ケニア | 3,581 | コンゴ(DRC) | 2,032 | デンマーク | 606 |
エチオピア | 2,566 | イラン | 1,910 | フィンランド | 573 |
スーダン | 1,057 | エチオピア | 1,269 | オランダ | 479 |
ヨルダン | 1,050 | アフガニスタン | 1,206 | ニュージーランド | 477 |
レバノン | 825 | スーダン | 547 | イギリス | 424 |
他 | 7,532 | 他 | 2,569 | 他 | 297 |
合計 | 61,649 | 合計 | 61,649 | 合計 | 61,649 |
日本の第三国定住パイロット事業
2010年、日本は第三国定住パイロット事業を開始しました。この事業を通じての難民受け入れはアジア地域では初めての実施例となりました。このパイロット事業を通じて日本は毎年30名前後の難民を当初三年間受け入れる方針を発表し、2012年11月現在、これまで日本は計45人のミャンマー難民をタイの国境にある難民キャンプから受け入れました。2012年には、パイロット事業の実施がさらに2年延長される事が決定され、また、対象となるキャンプも合計5つ(2012年に3つとなり、その後2013年3月に5つに拡大)、選考基準もより弾力的に拡大されました。同時に、内閣官房難民対策連絡調整会議の下、市民社会を含む第三国定住有識者会合が設立され、パイロット事業実施後の方策についての協議を行っています。UNHCRは、日本の第三国定住に関する主体的な取り組みを歓迎し、成功に向けて共働しています。