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自主帰還
本国への帰還
世界中の数百万の難民にとって、本国への帰還は逃避生活を終えるいちばんの望みであり続けています。大多数の難民のための選択肢となる恒久的解決策として、安全で尊厳のある自主帰還を行うためには、自国民の再定住のための本国の全面的参加が必要です。また、本国への帰還という勇気ある決断をする難民が安定した環境で生活を再建できるよう、紛争後のきわめて重要な期間を通して国際社会が継続的に援助することも必要です。
帰還という点に関しては、UNHCRが優先的に行うのは難民が自主帰還のための条件を満たせるよう奨励すること、自発的かつ説明を受け理解したうえでの選択を難民が取れるように働きかけ、そして帰還者への援助を結集させることです。実際に、様々な方法で自発的帰還を奨励、促進しています。その例としては、難民のために「状況を確認しに行く("go-and-see" visits)」訪問を促進することや、難民の出身国や地域に関する最新の情報を収集すること、平和および和解活動へ従事すること、住居や所有物の返還を促進すること、そして帰還支援や法律扶助を提供することなどが挙げられます。
自主帰還とは?
自主帰還とは、難民が自由な意志と情報にもとづく決断で、安全と尊厳をもって 出身国へ帰還することです。状況からみてこれが可能な場合、帰還は最も有益な解決法であると考えられます。自主帰還は、難民が出身国からの保護と配慮の下で慣れ親しんだ環境での生活を再開できるよう、支援するものです。しかし、これらの条件が満たされていない時は、帰還は持続可能なものにはならない可能性があり、難民は庇護国へ戻ることを求めることができます。
可能性の比較検討
自主帰還の実現可能性を考える場合、これを近い将来に適切な恒久的解決の選択肢として決定するに足る要素があるか見極めることが重要です。たとえば、出身国で和平交渉は進行中か、または近い将来に行われる可能性があるか?難民・国内避難民の帰還が自然発生的に起きているか?出身国の治安情勢は改善されているか?帰還が達成された時の対応、また自主帰還を推進するに当たって必要とされる条件としての、最低限の保障措置が出身国で設けられているか?難民のまま留まる人々に対する庇護の継続が確保されているか?こうした要素は、「自主帰還に関するハンドブック」に記述されているように、UNHCRによる自主帰還への関与を決定するものです。
自主性
帰還に際しては、UNHCRは、難民がカウンセリングを受けたうえで出身国に関する客観的な情報をもとに帰還を決めていることを確認すべきです。難民による帰還の決断は、受入国での庇護の状況や支援の不足・減少、出身国に残してきた家族・財産に対する脅威などの要素によって強要されるべきではありません。
安全と尊厳の下での帰還
国際的な法的枠組みと一致した見解として、UNHCRは「安全と尊厳のもとの」 帰還について、身体的・法的・物質的に安全な環境に、難民への国家からの保護が完全に回復した状態において帰還することという理解を示しています。理想としては、難民が元々の自らの居住地に帰還することです。
安全の下での帰還:法的安全(恩赦や身の安全、統一された運用、差別がないこと、帰還時に迫害や刑罰を受ける恐怖からの解放に対する公的保証)、身体的安全(武力攻撃からの保護、地雷のない帰還ルート、少なくとも自分の領域がはっきりと区画されている定住地など)、物質的安全(土地・生計を立てる手段へのアクセスなど)の条件が満たされている状況で行われる帰還のことを指します。
尊厳の下での帰還:尊厳という概念は、安全に比べると自明的なものではありません。一般的な辞書に見られる「尊厳」の定義は、「名誉と尊敬を受ける価値のある存在であること」とされています。実際には尊厳とは、難民が虐待を受けず、無条件にそして自発的に自身のペースで帰還することができ、恣意的に家族と切り離されることなく、国家から尊敬と完全な受容の姿勢をもって受け入れられ、そして難民が自らの権利を完全に回復させることを意味します。
UNHCRの役割
自主帰還を推進し、広めるというUNHCRの責任は、事務所規程に由来するものです。難民条約ではこれについて直接述べている箇所はありませんが、難民の地位の終止に関する規定がこれに関連しています。国連総会は、難民の自主帰還の推進・援助というUNHCRの任務を繰り返し確認してきており、また、恒久的帰還の重要性を認めたうえで、その任務が、帰還した後の対応や帰還後の生活の回復への支援を含むよう広げてきました。平和と和解が永続的と判断された場合は、UNHCRは自主帰還を推進します。理想的な条件が揃っていない場合、たとえば、和平プロセスの持続可能性が確保されていませんが、難民が自ら帰還している場合には、UNHCRは帰還のプロセスの手助けを行う場合があります。
いくつかの第三国定住受入国の中には、難民の自主帰還を支援する手順や経済的準備を整えている国もあります。自主帰還への特別な体制のない国やNGOやその他機関が提供する経済的資源にアクセスできない地域に住んでいる難民へどのような支援やアドバイスが可能かについては、UNHCR本部に確認すべきです。
自主帰還に関するUNHCRの任務として、以下のものを挙げることができます。
- ・難民の帰還が自主的に行われていることを確かめる
- ・難民が安全に尊厳をもって自主帰還できる状況の構築を推進する
- ・現況は帰還に資するものでないが難民が自発的に帰還している場合、それを手助けする
- ・出身国の状況についての情報を広める
- ・身体的・法的・物質的な安全と尊厳のもとでの帰還を可能にする状況を構築する
- ・帰還に資する状況が整った時には、自主帰還を推進する
- ・NGOやその他機関と連携して、帰還民の利益や福祉を守るために必要である、書類手続き・移動手段・受け入れへの対応を行う
- ・出身国に戻った帰還民の状況をモニターし、必要な場合は介入する
- ・帰還・再統合プログラムへの物質的・経済的支援を提供して出身国政府を援助するために、ドナーコミュニティからの寄付を募る
- ・NGO、専門機関、二国間援助機関が提供する中・長期的復興支援の推進媒体として動く
- ・国が自ら難民発生の原因を解決できるよう、法律・司法面での能力開発を支援する活動を行う
帰還の条件が満たされていることを確保することは、特に紛争後の状況では、大きな困難を伴う課題です。和平協定が結ばれた地域であっても、暴力行為の停止、通常の政治的・経済的・社会的生活の再構築、人権の尊重、長期的安定を達成するには、かなりの時間を要します。帰還する難民を吸収できる余力が出身国にあるかどうかも考慮すべき重要な事項です。
UNHCRは一般的に、短期間の緊急または人道的救済を通して、持続可能な再統合の確保に向けて活動します。人道的支援と長期的開発のつながりはこれまでずっと重要であり続けました。したがってUNHCRは、他の国連機関や国家の開発機構との共同作業を進めながら、特に「4R」アプローチ(帰還、再統合、復興、再建)を通じて、救援活動から開発へのスムーズな移行をめざしています。UNHCRが再統合関連の活動を主導している間、他の国連機関や世界銀行は、帰還の初期段階に密接に関わります。そうすることによって、開発に関する課題へ早期の取り組みが行われることを確保するとともに、長期的計画で見えてきた帰還民のニーズにも対応することを可能にするのです。
自主帰還した難民
自主帰還する難民の数は2004年以降絶えず減少傾向にあります。この傾向は2011年には推定年間53万2000人が自主帰還して増加傾向に逆転しました。この数値は2010年(19万7600人)の倍以上(169%増)で、60万4000人が自主帰還した2008年以来最高でした。この急激な数字の伸びにも関わらず、2011年に自主帰還した難民の数は過去10年で3番目に少ないものでした。世界的に910万人以上の難民が過去10年の間に帰国しており、その4分の3がUNHCRの援助を受けています。
2011年に帰国をした主な国としてリビア(14万9000人)、コートジボワール(13万5200人)、アフガニスタン(7万1100人)、イラク(6万7200人)、スーダン(5万100人)、コンゴ民主共和国(2万1100人)が挙げられます。
イラクは19万4000人が帰国した2004年以来最高の帰国者数を記録しました。2011年、帰国者数は2010年(2万8900人)の倍以上に当たる6万7100人にのぼりました。この増加の要因として帰国者に割り当てられる財源を増やす政府の決断、治安の向上、派閥間の暴動の減少が考えられます。2003年から2011年の間に50万人以上のイラク人が帰国しています。
(UNHCR, Global Trends 2011 , p. 17)
そのほか、自主帰還に関する日本語の情報については『第三国定住ハンドブック 』1.3.3章をご参照ください。