ルーマニアで「郷に入れば郷に従え」を実践するコンゴ難民

2013年5月23日 

1990年代に新たな故郷となったルーマニアで、娘レティシアと写るジャンルイ・キアルング © UNHCR/A.Anca
© UNHCR/A.Anca
1990年代に新たな故郷となったルーマニアで、娘レティシアと写るジャンルイ・キアルング

ルーマニア、ブカレスト 2013年5月10日発

ジャンルイ・キアルングのルーマニアへの想いは1990年代半ばに初めてルーマニアに来る以前から始まっていた。ルーマニアで昨年12月に総選挙が行われた時、ジャンルイはおそらくルーマニア人以上に自分を受け入れてくれた国の将来を気にかけていた。「私は職場の同僚や友人に候補者についてどう思うか訊ねましたが、ほとんどの人は『よく分からないな』と言うんですよ!」と、一般のルーマニア人は政治となると皆関心を示さないと流暢なルーマニア語で嘆く。

「どれだけ長い間ルーマニアは他のヨーロッパ諸国より劣っているという扱いを受けなければならないんだ!他の国と比べてルーマニアの何が劣っているというんだ!」アフリカ出身だからというだけではなく難民であるがゆえに選挙権を持たない事の悔しさも加わり、彼は熱く語る。

ジャンルイは16年前、34歳のときにコンゴ共和国からルーマニアにやってきた。彼は常に前を向き、若さと情熱を糧に苦難を乗り越え、安定した仕事、家族、家族と住む家を得た。

「ここに家を構え、子どもも生まれました。この国を良くしていきたいんです。」彼がこのように語る背景には、1996年に政治の混乱を受け自国を後にした後、内戦へと発展した故郷への思いがある。

彼は1996年10月に、後に妻となるルーマニア人のダニエラとブカレストの空港に降り立った。パリ行きのチケットを購入していたが、その前にルーマニアに住むダニエラの母の元で数ヶ月過ごすつもりだった。
「何が起こったのか自分でもわかりません。今でもうまく説明できないんですが、とにかくこの土地に恋してしまったんです。」

ジャンルイは現在ブカレスト近郊の町で、妻と14歳になる娘レティシアと大きな庭つきの家に暮らしている。彼はブカレストの銀行で送金に関わる業務を担当し、自宅では野菜や果樹などを育てている。ジャンルイはこの町で唯一の黒人であることに加え、その礼儀正しさから近所でもちょっとした有名人だ。ツイカという自家製のルーマニアのブランディを楽しむ仲間にも入れてもらい、すっかり地域の一員だ。

ジャンルイは語る。「ルーマニア社会に馴染むのは難しいことではありませんでしたし、私はその事を誇りに思っています。どこか新しい場所に行ったときは、まずが周りに順応し、受け入れてもらう努力をしなければいけないと思うんです。その努力なしに受け入れてもらおうと期待するのは間違いです。」

しかし一方で、最近ブカレストの都市部で体験したことはルーマニアのような白人社会で生きていくことは困難も伴うということをジャンルイに思い出させた。彼が携帯電話で話しながら道を歩いていた際に、人種差別を意味する言葉を投げつけられたのだ。

「向こうは集団でしたから、私がおびえると思っていたようです。でも私は電話を中断し、彼らに呼びかけました。『失礼ですが、私があなたに何かしたでしょうか?なぜ私にそのような事を言うのですか?あなたにはあなたのすべきことがあるように、私にも私のすべきことがあるんです。』」
このような勇気と強い意志を持ち続けることにより、ルーマニアは明らかに彼の第二の故郷となった。彼がコンゴ共和国で培ったフランス文学や、コミュニケーション学の知識も、他者との関わりを円滑にしていると感じている。

ジャンルイは「自分の人生で何を成し遂げたいかを見極めることも重要です」と語り、ルーマニアよりも難民にとっていい環境、いい待遇の仕事がある国が他にあるかもしれない、しかし、ルーマニアでの生活がそういった国と比較して苦しいものだと感じていないという。「ルーマニアの人々は善良で、国家は多大な可能性を秘めています。ですが時々、先日の人種差別発言を受けた時のようにアフリカがとても恋しくなる時もあります。」

友人が送ってくれたコンゴの音楽を聴きながらホームシックを感じるときもある。「昨日まるでコンゴにいるかのような錯覚を覚えました。あの時もし誰かが『コンゴに帰ろう!』と言っていたら帰ってしまったのではないかと思うほどです。」

ルーマニアが難民条約に批准してから21年が過ぎ、これまでに3550人以上が国際的保護を受けた。ルーマニアには難民を保護する法律はあるが、実際にそれを享受し、ルーマニアで生活の基盤を築くことは依然困難が伴う。昨年は2500人が保護を求め、難民庇護申請をおこなった。

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