外国とつながりのある子どもたちが多く在籍する横浜市立飯田北いちょう小学校。自分のルーツに誇りを持って日本社会で生きていく人を育てるには・・?教育の現場で奮闘するエネルギッシュな菊池先生にインタビュー!
—飯田北いちょう小学校には外国籍の児童や、外国にルーツのある日本国籍の児童が多く在籍していますね。そのような児童は全体の何割ほどいるのですか?
2016年1月時点で全校児童の数が308人、そのうち外国籍の児童は130人、日本国籍を持っていますが外国にルーツを持つ児童(親が外国籍)は26人いますので、全体の51%がそのような児童です。
—なぜこれほど外国とつながりのある子どもたちが多いのでしょうか?
児童の出身国を見ると、一番多いのがベトナム、次に中国、カンボジア、ラオスです。飯田北いちょう小学校の近くの大和市には、かつて日本へ渡ってきたインドシナ難民(ベトナム、ラオス、カンボジア出身の難民)の定住促進センターがあったことからこのような構成になっています。小学校の学区内にある「いちょう団地」にその多くが暮らしています。
—日本語が母語でない児童もいるかと思います。どのような取り組みがなされていますか?
外国とつながりのある子どもたちの90%が日本で生まれたか、0歳から3歳という幼い時期に日本に来ています。家庭内で使っている言語についてアンケートをとると、日本語のみが21%、母語のみが30%、母語と日本語両方が51%とそれぞれ異なります。日本人の児童も含め、日本語という言葉を授業の中でも丁寧に教えて伸ばしていくことを心がけ、各学年少人数の指導を行っています。
平成25年からベトナムと中国出身の外国語補助指導員が来てもらえるようになりました。授業でわからない事があった時に補助指導員が通訳し、児童が日本語で応えられるようフォローしています。
補助指導員とのかかわりを通して、ベトナムにルーツのある児童の中に親が話すベトナム語への思いが芽生え「自分はベトナム人として誇りを持ちたいと思うようになった」と話してくれたときはとても嬉しかったです。
—日本語が出来ない保護者への対応はどのように行っていますか?
日本語が十分に理解出来ない保護者に対して、学校行事やお知らせ等を確実に伝えることを大事にしています。現在学校には通訳となる先生がおり、保護者からの質問に電話で応える時間を設けています。またこの時間帯は保護者のみならず、この地域に住む日本語が不自由な人からの相談も受け付けています。通訳の先生は学校からの配布物を翻訳するなど、きめ細かい対応を行なっています。
—課題であると感じていることは何ですか?
言葉は児童1人1人のアイデンティティと深く結びついています。母語を封印し、日本語だけを伸ばすという考え方ではなく、母語やその文化への理解を深めることも大事にしています
—学校の廊下には様々な国の民族衣装や民芸品を展示する「みんなの国の文化紹介コーナー」がありますね。
そうなんです。このコーナーには児童の出身国の文化等がわかる物や本などが置かれ、自由に触ったり読んだり出来る様になっています。皆、ここで遊ぶのが好きなんですよ。外国のものだけでなく「障子」も置いてあったりと日本の文化もわかるコーナーにしています。
—多様な背景を持つ児童が多く学ぶ飯田北いちょう小学校ならではの取り組みがあれば教えてください
入学式や卒業式など、保護者も参加する学校行事は日本語の挨拶のあとにそれぞれの言語の通訳が入ります。運動会でのアナウンスも日本語のあとに児童がそれぞれの言語でマイクにむかってしゃべります。学校給食も、児童によっては宗教上の理由で食べられる物に制限があるので、そのような場合も個別に対応出来るよう体制を整えています。
—互いに異なる背景を持つ子どもたちの間で差別があったりケンカしたりなど、普段の生活の中でそのような光景を見ることはありますか?
私はここで13年働いていますが、国籍や見た目で差別したり、偏見を持ったりという子どもたちの姿を見たことがありません。それは幼い時から身近に多様な背景を持った子どもたちがいて、共に育ってきたからかもしれません。子どもたちは、外見の違いも含め、互いにその人自身を受け入れて接しているように感じます。
様々な言語で書かれたいちょう団地の標識
—先生は教職に就かれてから何年ですか?忙しい毎日の中で、心の支えとなっていることは何ですか?
地元仙台の小学校で仕事を始めてから23年です。そのうち半分の期間を、多様な背景を持つ子ども達が多く集まっている学校で過ごしてきました。外国にルーツを持つ保護者から「先生、どうもありがとう」と言われるととても嬉しく、それを支えに明日も頑張ろうと思います。
—先生は日本に避難してきたインドシナ難民の子どもたちにも日々接していらっしゃいます。「難民を受け入れる」ということについて教育現場で感じることはなんですか?
多様な背景を持つ人を受け入れるということ、実はこれは受け入れ側が大きく成長するんです。これから外国出身の方が日本で増えて行きます。自分と違う人と出会った時に、相手の良さを知り、自分をアピール出来る人が求められていると思います。そんな人材こそがこれからの日本を豊かにするのではないでしょうか。単に日本人の文化や価値観を押しつけて相手を「日本人化」するのではなく、相手の良さを引き出すことに心を砕けば、その人は日本という国にとっても貴重な財産になります。難民も同じです。「お荷物」ではなく、相手の良さを伸ばして財産にするという発想の転換が必要なのではないでしょうか。
私は難民に関する授業を定期的に行っています。「なぜ自分はここにいるのか」ということについて親にインタビューして発表する時間も設け、皆で話し合います。そして日本に来た難民の話をした後は必ず、1800年代後半に海外へと渡った多くの日本人の話もします。日本人がどんな国でどのように受け入れられたのか。最初は差別されても、逞しく生きた日本人がいたこと、そしてそのような日本人を評価して受け入れてくれた国があったことについて、皆で話します。「自分ならどういう風に受け入れられたいか」を考えることによって、おのずと今自分が日本で何をすればいいかがわかるのではないでしょうか。
—最後に菊池先生の望んでいること、皆に伝えたいことを教えて下さい
これからは「多文化共生社会」という視点が大事だと思います。人種、宗教、民族、国籍などを超えて、同じ人間なのだから「頑張った人が評価される」、そんな日本であって欲しいと願います。例えば少子高齢化が進んだ国が低賃金で外国人労働者を雇う、という発想ではもう通用しないと思います。自国のルールを押し付けたり、自国民を優遇したりするのではなく、相手の多様性を認めて良さを引き出すという発想が大事だと感じます。どんな背景を持っていても「日本のために頑張ろう」という人に対して開かれた社会であって欲しいと思います。それは国の財産にもなるのです。
取材日:2016年2月
菊池聡(きくち さとし)
2004年より神奈川県横浜市立いちょう小学校国際教室担当。現在は2013年に統合した横浜市立飯田北いちょう小学校の国際教室担当。学校という組織の枠を超え、幼稚園・保育園から中学・高校との連携、地域のボランティア団体などとの協働を進める。多文化共生と、日本語教育を含めた子どもたちの教育、という視点から地域づくりに取り組む。